奨学金返済中にライフイベントが起きたら?結婚、出産、転職時の手続きと支援制度
ライフイベントと奨学金返済の不安
奨学金の返済は、卒業後から長期間にわたり続きます。この長い返済期間中には、結婚、出産、育児、転職、病気など、様々なライフイベントが起こる可能性があります。これらの出来事が収入に影響を与え、「奨学金をきちんと返していけるだろうか」と不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、ライフイベントが起きた際に奨学金返済にどう向き合えば良いのか、どのような手続きが必要になるのか、そして利用できる支援制度にはどのようなものがあるのかについて、分かりやすくご説明します。将来への漠然とした不安を解消し、安心して返済を続けるための具体的な情報を把握していただく一助となれば幸いです。
奨学金返済の基本義務を再確認
まず、奨学金は、貸与されたお金であるため、原則として決められた期間内に返還する義務があります。これは、どのようなライフイベントが発生しても変わらない基本的な考え方です。毎月の返還額や返還期間は、貸与を受けた奨学金の種類や金額、選択した返還方式によって異なりますが、一度決定した返還計画は基本的に変更されません。
しかし、人生には予期せぬ出来事がつきものです。収入が減少したり、一時的に収入が途絶えたりする状況も起こりえます。そのような場合に、ただちに返済が困難になることへの不安を和らげ、返済を継続できるよう、公的な支援制度が用意されています。
ライフイベントが収入に与える影響
奨学金返済中に起こりうる主なライフイベントと、それが収入に与える可能性のある影響を考えてみましょう。
- 結婚: 共働きの場合は世帯収入が増加する可能性がありますが、片方が扶養に入る場合は世帯全体の収入構造が変わります。また、結婚に伴う引っ越しや生活費の増加も考慮が必要です。
- 出産・育児: 一時的に産前産後休業や育児休業を取得する場合、給与の全てではなく育児休業給付金などが支給される形となり、収入が減少することが一般的です。復職後も、時短勤務などで収入が減る可能性や、 child care 費用などの支出が増加します。
- 転職・失業: 転職活動期間中は収入が途絶える可能性があり、転職先の給与水準によっては収入が減少する可能性もあります。リストラや会社の倒産などで失業した場合は、失業給付金などが支給されるまでの間、収入が大きく減少します。
- 病気・けが: 病気やけがで長期間働けなくなった場合、傷病手当金などで一定の補償がある場合でも、多くの場合、働いていた時と比べて収入は減少します。
これらの収入変動は、毎月の奨学金返済に影響を与える可能性があります。
収入が減少した場合に利用できる支援制度
奨学金の返済が経済的に困難になった場合に、日本学生支援機構(JASSO)にはいくつかの支援制度があります。特に知っておきたいのは、「減額返還制度」と「返還期限猶予制度」です。
減額返還制度
この制度は、災害、傷病、その他経済的な理由により奨学金の返還が困難な場合に、一定期間、月々の返還額を減額して返還することができる制度です。減額の割合は、例えば月額返還額を2分の1や3分の1に減らすといった選択肢があります。
- 利用条件: 災害、傷病、経済困難(年間収入325万円以下など、一定の基準があります)といった条件を満たす必要があります。
- メリット: 月々の返還負担を軽減できます。
- 注意点: 月々の返還額は減りますが、その分返還期間は延長されます。減額された期間の利息は発生しません(有利子奨学金の場合)。
返還期限猶予制度
この制度は、経済的な理由などで奨学金の返還が困難になった場合に、一定期間、返還を一時的に中断(猶予)することができる制度です。
- 利用条件: 災害、傷病、経済困難(年間収入300万円以下など、一定の基準があります)、失業、生活保護受給中、産前産後休業・育児休業中など、様々な理由が対象となります。
- メリット: 一時的に返済のプレッシャーから解放されます。
- 注意点: 猶予された期間分、返還終了時期が遅れます。有利子奨学金の場合、猶予期間中も利息は発生します(一部例外を除く)。猶予期間は、通算して最長10年までといった上限があります。
これらの制度は、あくまで一時的な対応策であり、返還義務そのものが免除されるわけではない点にご留意ください。ご自身の状況に合わせて、どちらの制度が適しているか、または両方を組み合わせて利用できるかなどを検討することが重要です。
各ライフイベント発生時の具体的な対応と手続き
ライフイベントが発生した際に、奨学金返済に関して具体的にどのような対応や手続きが必要になるかをまとめました。
結婚
- 氏名変更手続き: 結婚により氏名が変わる場合は、JASSOに氏名変更の届け出が必要です。インターネット(スカラネット・パーソナル)または郵送で手続きを行います。
- 連帯保証人・保証人への連絡: 機関保証を利用している場合は不要ですが、人的保証の場合は、保証人にも氏名変更や状況の変化を伝えておくのが良いでしょう。
- 家計管理の見直し: 配偶者と協力して、世帯全体での収入と支出を把握し、奨学金返済を組み込んだ新しい家計計画を立てましょう。
出産・育児
- 収入減の見込みと制度の検討: 産前産後休業や育児休業で収入が減少する場合は、減額返還制度または返還期限猶予制度の利用を検討します。
- 申請手続き: 制度を利用する場合、申請書に加えて、産休・育休を証明する書類(勤務先の証明書など)や収入に関する書類が必要になります。申請は休業に入る前や、収入が減少し始めた段階で行うのが望ましいです。
転職・失業
- 収入減と制度の検討: 転職活動期間中の収入途絶や、転職後の収入減少、失業給付受給中の期間など、収入が減少または不安定になる場合は、減額返還制度または返還期限猶予制度の利用を検討します。
- 申請手続き: 制度を利用する場合、離職票や雇用保険受給資格者証、転職先の給与証明書など、状況を証明する書類が必要になります。
- ハローワーク等との連携: 失業中の場合は、ハローワークなどで就職活動を進めると同時に、奨学金返済についても相談できる窓口がないか確認してみるのも良いかもしれません。
病気・けが
- 収入減と制度の検討: 病気やけがによる休職・退職で収入が減少する場合は、返還期限猶予制度(傷病)や減額返還制度の利用を検討します。
- 申請手続き: 制度を利用する場合、医師の診断書や傷病手当金支給決定通知書など、病気やけが、それによる収入減を証明する書類が必要になります。
どのライフイベントの場合も、重要なのは「一人で抱え込まない」ことです。まずはJASSOの相談窓口に連絡を取り、ご自身の状況を伝えてどのような対応が可能か相談することをおすすめします。
ライフイベントに備える日頃からの準備
予期せぬライフイベントにも柔軟に対応できるよう、日頃からできる準備があります。
- 自身の奨学金情報を正確に把握しておく: 借入総額、月々の返還額、返還方式、完還予定年月などをスカラネット・パーソナルなどで定期的に確認しましょう。
- 家計を把握し、計画的に管理する: 毎月の収入と支出を正確に把握し、奨学金返済額を考慮した無理のない家計管理を心がけましょう。緊急時のための貯蓄(緊急予備資金)も少しずつ準備しておくと安心です。
- JASSOのウェブサイトや情報を確認する習慣をつける: 支援制度の内容や申請手続きは変更される可能性もあります。常に最新の情報を確認することが大切です。
- 相談できる窓口を知っておく: JASSOの相談窓口の連絡先を控えておきましょう。困ったときにすぐに相談できる体制を整えておくことが、不安を軽減する上で非常に有効です。
まとめ
奨学金返済中に結婚、出産、転職、病気といったライフイベントが発生することは、多くの人にとって起こりうることです。これらのイベントによって収入が変動し、返済に不安を感じることもあるかもしれません。
しかし、日本学生支援機構には、返還困難な状況を支援するための減額返還制度や返還期限猶予制度があります。これらの制度を適切に利用することで、困難な時期を乗り越え、返済を続けることが可能です。
大切なのは、状況が変化した際に一人で悩まず、まずは利用できる制度について調べ、JASSOに相談することです。日頃から自身の奨学金情報を把握し、家計管理をしっかりと行っておくことも、予期せぬ事態への備えとなります。
ライフイベントを乗り越えながら、着実に奨学金完済を目指していきましょう。この記事が、あなたの返済計画の一助となれば幸いです。