奨学金返済と将来のための貯蓄:無理なく両立させるための計画
はじめに
奨学金を返済されている方の中には、「返済額が多くて、なかなか貯蓄に回す余裕がない」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。毎月の返済に加えて、将来のライフイベント(結婚、マイホーム購入、教育費、老後資金など)に備えるための貯蓄も必要だと考えると、どうしても不安になってしまうものです。
しかし、奨学金返済と将来のための貯蓄は、決して両立できないものではありません。計画的に取り組むことで、無理なく返済を進めながら、着実に貯蓄を増やすことは可能です。
この記事では、奨学金返済と貯蓄を両立させるための考え方と、具体的な計画の立て方、そして実践のためのヒントをご紹介します。この記事を通して、返済と貯蓄の両立に向けた一歩を踏み出すお手伝いができれば幸いです。
なぜ奨学金返済中に貯蓄が必要なのか
奨学金返済を最優先することも大切ですが、同時に将来のための貯蓄も進めることには重要な理由があります。
- ライフイベントへの備え: 結婚、出産、住宅購入、お子様の教育費など、人生には大きなお金が必要となるタイミングが訪れます。これらのイベントに備えるためには、計画的な貯蓄が不可欠です。
- 緊急時の備え: 病気やケガによる休職、予期せぬ失業など、収入が途絶えたり減少したりするリスクに備えることも重要です。いざという時に頼れる貯蓄(生活防衛資金)があることで、奨学金返済に加えて生活費に困窮する事態を防ぐことができます。
- 精神的な安定: 手元にある程度の貯蓄があることは、日々の生活や将来に対する漠然とした不安を軽減し、精神的な余裕をもたらしてくれます。これは、奨学金返済という長期的な道のりを乗り越える上で大きな支えとなります。
- 資産形成のチャンス: 若いうちから少額でも貯蓄や資産形成を始めることで、複利の効果などを活用し、将来の資産を大きく育てられる可能性があります。
奨学金返済だけに集中するのではなく、将来を見据えた貯蓄も並行して行うことが、経済的な安定と精神的なゆとりにつながるのです。
返済と貯蓄のバランスをどう考えるか
「奨学金の早期返済(繰り上げ返済)と貯蓄、どちらを優先すべきか?」という疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。これには、明確な一つの正解があるわけではなく、ご自身の状況や考え方によって最適なバランスは異なります。
一般的には、以下のような考え方があります。
- 奨学金の種類と金利で判断:
- 無利子奨学金(第一種): 金利がかからないため、早期返済しても利息軽減効果はありません。この場合は、返済に加えて貯蓄を優先する方が、手元資金を確保しやすいと言えます。
- 有利子奨学金(第二種): 金利がかかるため、早期返済することで返済総額を減らす効果があります。金利が高い場合は、ある程度の生活防衛資金を確保した上で、繰り上げ返済を優先する方が経済的なメリットが大きい場合があります。ただし、現在の低金利環境では、金利によるメリットが限定的であることも考えられます。
- リスク許容度で判断:
- 手元資金が少ない状態に不安を感じる場合は、まずは生活防衛資金(目安として生活費の3ヶ月〜6ヶ月分)の確保を優先しましょう。これが貯まってから、繰り上げ返済や本格的な将来の貯蓄に取り組むのが安心です。
- ある程度のリスクを取ってでも返済負担を早く減らしたい場合は、生活防衛資金を確保しつつ、余剰資金を繰り上げ返済に充てる比率を高くすることも考えられます。
奨学金返済と貯蓄は、どちらか一方ではなく、ご自身の経済状況、ライフプラン、リスクに対する考え方に応じて、無理のないバランスで両立させることが重要です。まずは「生活防衛資金の確保」を最優先し、その上で返済と貯蓄の配分を検討するのがおすすめです。
無理なく両立するための具体的なステップ
奨学金返済と貯蓄を両立させるためには、計画的に取り組むことが不可欠です。以下のステップで進めてみましょう。
ステップ1:現在の状況を正確に把握する
まずは、ご自身の経済状況を客観的に見つめ直すことから始めます。
- 奨学金の返済状況:
- 種類(第一種・第二種)と借入総額
- 現在の返済残高
- 毎月の返済額
- 返済方式(定額返還方式か所得連動返還方式か)
- 返済終了予定年月
- 有利子奨学金の場合は適用金利(固定か変動か)
- ※これらの情報は、日本学生支援機構(JASSO)のスカラネット・パーソナルで確認できます。
- 収入と支出:
- 毎月の手取り収入
- 毎月の固定費(家賃、通信費、保険料、奨学金返済額など)
- 毎月の変動費(食費、光熱費、交際費、趣味費など)
- 家計簿アプリやエクセルなどで記録し、何にいくら使っているのかを把握しましょう。
- 現在の貯蓄額:
- 銀行預金、定期預金、投資など、現在保有している貯蓄額を確認します。
現状を正確に把握することで、どこに余裕があり、どこを改善できるのかが見えてきます。
ステップ2:将来の目標と貯蓄目標を設定する
いつまでに、何のために、いくら貯めたいのか、具体的な目標を設定します。
- 短期目標: 生活防衛資金として〇〇円を〇年後までに貯める
- 中期目標: 結婚資金として〇〇円を〇年後までに、住宅購入の頭金として〇〇円を〇年後までに貯める
- 長期目標: 老後資金として〇〇円を〇歳までに貯める
具体的な金額と期限を決めることで、毎月いくら貯蓄に回せば良いのかが明確になります。複数の目標がある場合は、優先順位をつけたり、並行して進める場合の配分を考えたりします。
ステップ3:無理のない家計管理計画を立てる
把握した収支と設定した貯蓄目標を踏まえ、毎月いくら返済に充て、いくら貯蓄に回すのか、具体的な計画を立てます。
- 収入 − (固定費 + 奨学金返済額) − 毎月の目標貯蓄額 = 毎月使える生活費(変動費)
この計算式で、毎月使える生活費の上限が見えてきます。もし、この金額で生活するのが難しい場合は、支出の見直しや削減を検討する必要があります。
ステップ4:家計を見直し、支出を削減する
設定した予算内で生活できるよう、家計を見直します。特に効果が大きいのは固定費の見直しです。
- 固定費の見直し例:
- 通信費: 格安SIMへの乗り換えなどを検討
- 保険料: 保険内容を見直し、不要な特約などを削減
- サブスクリプションサービス: 利用していないサービスは解約
- 住居費: 可能であれば、家賃の安い物件への引っ越しを検討
- 変動費の見直し例:
- 食費: 外食を減らし自炊を増やす、食材の無駄をなくす
- 水道光熱費: 節水を意識する、使わない電気は消す
- 趣味・交際費: 予算の上限を決める、無料や安価な楽しみ方を見つける
記録した家計簿を見ながら、どこに無駄があるか、どこを削れるかを具体的に検討しましょう。「塵も積もれば山となる」で、小さな支出削減でも、積み重ねることで大きな貯蓄につながります。
ステップ5:貯蓄を仕組み化する(先取り貯蓄)
家計を見直して捻出したお金を、確実に貯蓄に回すための仕組みを作りましょう。最も効果的な方法の一つが「先取り貯蓄」です。
- 給料が振り込まれたらすぐに、貯蓄目標額を別の口座に移したり、自動積立定期預金を利用したりします。
- 財形貯蓄制度や、会社の持株会制度など、給与天引きで貯蓄できる制度があれば積極的に活用しましょう。
- 「先に貯蓄分を除けておき、残ったお金で生活する」という意識を持つことが重要です。
この仕組みを作ることで、「お金が余ったら貯蓄しよう」ではなく、「まずは貯蓄、残りで生活」という体質に変わり、貯蓄が習慣化されます。
返済と貯蓄を両立するためのヒント
- 副収入を得ることを検討する: スキルや時間を活かして、副業やフリーランスとして収入を得ることで、返済や貯蓄に回せるお金を増やすことができます。ただし、本業に支障が出ない範囲で、無理のないように行うことが大切です。
- 一時的な収入(ボーナスなど)の活用方法を決めておく: ボーナスや臨時収入があった場合、どのくらいを繰り上げ返済に充て、どのくらいを貯蓄に回すのか、事前にルールを決めておくと迷いません。
- 定期的に計画を見直す: 収入や支出、ライフプランは変化します。年に一度など、定期的に返済・貯蓄計画を見直し、必要に応じて修正しましょう。
- 無理をしすぎない: あまりにも厳しすぎる節約や返済計画は、長続きしません。時には息抜きも必要です。長期的な視点で、継続可能なペースで取り組むことが成功の鍵となります。
- 減額返還制度や返還期限猶予制度を知っておく: 万が一、病気や失業などで収入が大幅に減少し、返済が困難になった場合でも、利用できる制度があります。これらの制度について事前に知っておくことで、いざという時の不安を軽減できます。(詳細については、別の記事「もし奨学金返済が難しくなったら?知っておきたい支援制度と手続き」をご覧ください。)
まとめ
奨学金返済は、決して楽な道のりではありません。しかし、将来のための貯蓄も同時に進めることは、経済的な安定と心のゆとりを得る上で非常に重要です。
まずはご自身の状況を正確に把握し、無理のない範囲で具体的な貯蓄目標を設定することから始めましょう。そして、家計を見直し、先取り貯蓄などの仕組みを活用することで、奨学金返済と貯蓄の両立は十分に可能です。
焦らず、ご自身のペースで、一歩ずつ計画を進めていきましょう。この記事が、皆さんの奨学金完済と将来の資産形成の一助となれば幸いです。