もし奨学金返済が難しくなったら?知っておきたい支援制度と手続き
奨学金返済、「難しいな」と感じたら
奨学金の返済は、卒業後に始まる新しい生活の一部ですが、時には収入が不安定になったり、予期せぬ病気や怪我に見舞われたりして、「返済が少し難しいかもしれない」と感じることがあるかもしれません。そうした不安を感じているのは、決してあなた一人ではありません。多くの人が、ライフステージの変化に伴い、返済について悩む時期を経験しています。
奨学金返済で大切なのは、問題を一人で抱え込まず、利用できる制度を知り、適切に対応することです。日本学生支援機構(JASSO)には、返済が困難になった場合に利用できるいくつかの支援制度が用意されています。これらの制度を理解しておくことで、いざという時に慌てず、落ち着いて対処することができます。
この記事では、奨学金の返済が難しくなった場合に知っておきたい主な支援制度と、それぞれの制度を利用するための手続きについて、分かりやすくご説明します。
返済が難しくなるのはどんな時?
奨学金の返済は、原則として卒業後、決められた期間にわたって毎月または半年ごとに一定額を返していくものです。しかし、次のような状況になると、返済の負担が大きくなることがあります。
- 収入の減少: 勤めている会社の業績悪化による給与カットや、転職活動中の無収入期間などが考えられます。
- 失業: 会社を解雇されたり、自己都合で退職したりして、収入が途絶えてしまう状況です。
- 病気や怪我: 長期にわたる病気や怪我により、働けなくなったり、医療費がかさんだりする場合があります。
- 災害: 自然災害(地震、台風、水害など)により、家計が大きな被害を受けることがあります。
- その他: 家族の介護が必要になった、結婚や出産で一時的に収入が減ったなど、個別の事情によって返済が困難になることもあります。
このような状況になった時、「返済できないかもしれない」と放置してしまうと、延滞となり様々な問題が生じる可能性があります。そうなる前に、利用できる制度がないか確認することが重要です。
知っておきたい主な支援制度:減額返還制度と返還期限猶予制度
JASSOでは、奨学金の返済が困難になった場合に利用できる主な制度として、「減額返還制度」と「返還期限猶予制度」を提供しています。それぞれの制度について詳しく見ていきましょう。
1. 減額返還制度
この制度は、月々の返還額を減らすことで、返済の負担を軽減するものです。当初の約定返還期間は延長されますが、返還総額(利息を含む)は変わりません。
- どのような制度?: 毎月の返還額を、当初の額の2分の1または3分の1に減額して返還することができます。
- 利用できる条件: 災害、病気、その他やむを得ない事情により、経済的に返還が困難であると認められる場合に対象となります。生計維持者(原則として本人)の年収が一定額以下であることなどの基準があります。
- 適用される期間: 適用期間は1回につき12か月です。通算して最大15年(180か月)まで利用できます。
- メリット: 月々の返済負担が軽くなるため、現在の家計状況に合わせて返済を続けることが可能になります。
- 注意点: 返還期間が長くなるため、完済までの道のりが長くなります。利息のある第二種奨学金の場合、期間が延びても利息は発生し続けます。
2. 返還期限猶予制度
この制度は、一定期間、奨学金の返還を待ってもらう(一時停止する)ものです。
- どのような制度?: 災害、病気、その他やむを得ない事情により返還が困難な場合に、願い出により承認された期間の返還を先送りにすることができます。
- 利用できる条件: 経済的に返還が困難であること、または災害、病気、休職、失業、生活保護受給など、特定の理由に該当する場合に対象となります。失業や病気など、理由によって猶予を受けられる期間や条件が異なります。
- 適用される期間: 猶予期間は1回につき最長12か月です。通算して最長10年(120か月)まで利用できます。(ただし、災害、傷病、生活保護受給などの場合は、その状況が継続する期間)
- メリット: 猶予期間中は返還の必要がなくなるため、一時的に収入が途絶えた場合などに有効です。
- 注意点: 猶予された期間に応じて返還終了年月が先送りされます。猶予期間中も、利息のある第二種奨学金の場合は利息が発生します。猶予期間が終わると、返還が再開されます。
各制度の申請方法と注意点
減額返還制度、返還期限猶予制度ともに、制度を利用するためにはJASSOへの申請が必要です。
申請方法
- JASSOのウェブサイトで情報収集: まずはJASSOの公式ウェブサイトで、最新の制度内容、申請条件、必要書類などを確認してください。
- 必要書類の準備: 申請には、申請書の他に、現在の収入を証明する書類(所得証明書など)、病気や失業などの状況を証明する書類(診断書、離職票など)、マイナンバーに関する書類などが必要になります。理由によって必要な書類が異なりますので、事前にしっかりと確認してください。
- 申請手続き:
- スカラネット・パーソナル: インターネット上の「スカラネット・パーソナル」から申請手続きを行うことができます。多くの場合、こちらからの申請がスムーズです。
- 郵送: 必要書類を揃えて、JASSOに郵送することも可能です。
- 審査・承認: 申請内容に基づいてJASSOによる審査が行われます。承認されると、その旨の通知が届き、制度が適用されます。
申請時の注意点
- 早めの相談・手続き: 「返済が難しいかも」と感じ始めたら、できるだけ早くJASSOの相談窓口に問い合わせるか、制度申請の手続きを開始することをおすすめします。返済期日を過ぎてからでは、延滞となってしまう可能性があります。
- 必要書類の確認: 申請理由によって必要な書類が細かく定められています。不備があると審査に時間がかかったり、申請が受け付けられなかったりするため、事前にJASSOのウェブサイトや相談窓口でしっかり確認することが大切です。
- 制度利用中の返済: 減額返還制度を利用している間も、減額された後の金額での返済は継続する必要があります。猶予制度を利用している間は返済はありませんが、期間が終われば返済が再開されます。
- 継続申請が必要な場合: 減額返還制度も返還期限猶予制度も、適用期間には上限があります。引き続き制度の利用を希望する場合は、期間が終わる前に改めて申請手続きが必要になります。
返済が難しくなる前にできること
「返済が難しい」という状況になる前に、または制度を利用しながらでも、できることはいくつかあります。
- 家計の見直し: 収入と支出をしっかり把握し、無駄がないか確認します。食費、通信費、交際費など、固定費や変動費を削減できないか検討します。
- 副収入の検討: 可能な範囲で、本業以外の収入を得る方法がないか考えてみることも一つの手です。
- 繰り上げ返済の検討: もし余裕がある月に少しでも多く返済できれば、元金が早く減り、特に第二種奨学金の場合は将来の利息負担を軽減できます。これは返済が順調な時に検討すべき方法ですが、完済を早めることにつながります。
- 専門機関への相談: JASSO以外にも、地域の相談窓口やファイナンシャルプランナーに家計相談をしてみるのも良いかもしれません。
延滞してしまったら?
もし返済期日までに返済ができず、延滞してしまった場合でも、そのまま放置することは避けてください。延滞が続くと、次のような影響が出る可能性があります。
- 延滞金: 約定の返還額に加えて、延滞金が発生します。
- 督促: 電話や文書による督促が行われます。
- 個人信用情報機関への登録: 長期間延滞が続くと、いわゆる「ブラックリスト」に載ることがあり、将来のローンやクレジットカードの利用に影響が出る可能性があります。
- 法的手続き: さらに延滞が続くと、法的措置が取られる可能性もゼロではありません。
延滞してしまった場合でも、まずはJASSOに連絡し、現在の状況を正直に伝え、今後の返還について相談することが最も重要です。延滞者向けの相談窓口も用意されています。
まとめ
奨学金の返済中に「難しいな」と感じたとしても、一人で悩む必要はありません。日本学生支援機構には、返済を続けることが困難になった人のための支援制度が用意されています。
特に減額返還制度と返還期限猶予制度は、多くの人が利用を検討できる制度です。これらの制度を理解し、ご自身の状況に合わせて適切に利用することで、返済の負担を軽減し、延滞を防ぐことができます。
大切なのは、問題を早期に発見し、JASSOに相談するなどの具体的な行動を起こすことです。「返済が難しいかもしれない」と感じたら、まずはJASSOのウェブサイトを確認したり、相談窓口に連絡したりすることから始めてみてください。制度を賢く利用しながら、完済を目指しましょう。