奨学金返済が困難になった時の支援制度:減額・猶予だけじゃない選択肢
奨学金返済の不安、もしもの時の備えはできていますか?
奨学金の返済は、卒業後から始まる長期にわたる責任です。計画通りに進めば良いのですが、予期せぬ事情で収入が減ったり、病気になったりするなど、返済が難しくなる可能性もゼロではありません。特に返済が始まったばかりの時期は、家計とのやりくりに不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、返済が困難になったとしても、一人で抱え込む必要はありません。日本学生支援機構(JASSO)では、奨学金の返還を支援するための様々な制度を設けています。これらの制度を事前に知っておくことで、万が一の際にも落ち着いて対応することができます。
この記事では、多くの方がご存知の「減額返還制度」や「返還期限猶予制度」に加え、それ以外の支援制度についても解説します。もしもの時の選択肢を知り、安心して返済に取り組むための情報としてお役立てください。
まずはここを確認:多くの人が利用を検討する「減額返還」と「返還期限猶予」
奨学金の返済が難しくなった際に、まず多くの方が利用を検討するのが以下の二つの制度です。これらの制度は、経済的に困窮した場合や、特定の事情(災害、病気・負傷、失業など)が発生した場合に申請できます。
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減額返還制度
- 概要: 毎月の返済額を、当初の金額の3分の1または2分の1に減額して返還する制度です。
- 効果: 一時的に毎月の返済負担を軽減できます。ただし、返済期間は減額した期間分、延長されます。返済総額は変わりません。
- 利用条件: 収入や負債の状況が一定の基準以下であること、または病気、災害などやむを得ない事情により返済が困難になった場合に申請できます。
- 利用期間: 最長15年(180月)まで利用できます。
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返還期限猶予制度
- 概要: 一定期間、奨学金の返還を先送り(猶予)することができる制度です。
- 効果: 猶予期間中は返済額がゼロになります。ただし、猶予された期間分、返還終了時期が後ろ倒しになります。猶予期間中の利息(有利子奨学金の場合)はつきません。
- 利用条件: 収入や負債の状況が一定の基準以下であること、または病気、災害、失業、学校への再入学など、やむを得ない事情により返済が困難になった場合に申請できます。
- 利用期間: 願出期間は1回の申請につき最長1年ですが、通算して最長10年まで繰り返し申請できます(特別な事情がある場合は10年を超えることもあります)。
これらの制度は、返済が一時的に困難になった場合の強力なセーフティネットとなります。しかし、これら以外にも利用できる制度があります。
知っておくと安心:減額・猶予だけではない支援制度
減額返還や返還期限猶予が利用できない、あるいは状況がより深刻な場合に検討できる制度もあります。すべての奨学生が対象となるわけではありませんが、万が一の備えとして知っておくことは大切です。
死亡又は精神若しくは身体の障害による返還免除
この制度は、奨学生本人が亡くなってしまった場合や、精神または身体の障害により働くことが著しく困難になり、奨学金の返還ができなくなった場合に、本人や連帯保証人、保証人からの願い出によって、返還の全部または一部が免除される制度です。
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対象者:
- 奨学金の返還中に本人が死亡した場合
- 精神または身体の障害により労働能力を喪失、あるいは労働能力に高度の制限を有し、返還ができなくなった場合
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手続き: 所定の申請書類と、死亡または障害の状況を証明する書類(医師の診断書、身体障害者手帳の写しなど)を添えて申請する必要があります。
この制度は、万が一の場合に遺族や保証人に過大な負担がかかることを防ぐための重要な制度です。
特定の分野の専門家等に対する返還免除(一部)
これは、特定の分野で働く奨学生に対し、一定の要件を満たす場合に奨学金の返還が免除される制度です。対象となるのは、教育、研究、医療、福祉などの分野で、特に人材育成や地域貢献などが奨励されている職種に就いている方などが含まれます。
- 対象となる分野の例:
- 教育職員(特にへき地など特定の地域や分野)
- 研究者(特に指定された研究分野)
- 医療従事者(特にへき地医療など)
- その他、国や地方公共団体が定める特定の分野
この制度の詳細は分野によって異なります。ご自身の職業が対象となる可能性がある場合は、JASSOのウェブサイトなどで最新の情報をご確認ください。これは全員が利用できる制度ではありませんが、キャリアプランによっては返済の負担を軽減できる可能性があります。
災害等による返還期限猶予の特例
大規模な自然災害などが発生した場合、通常の返還期限猶予制度とは別に、被災された方を対象とした特別な猶予措置が講じられることがあります。適用地域や期間などは、災害の規模や状況によって異なりますが、このような特例措置があることを知っておくと、いざという時に役立ちます。
支援制度を利用するための具体的なステップと注意点
これらの支援制度を利用するためには、原則として申請が必要です。具体的な手続きの流れと、申請時の注意点をご説明します。
- 自身の状況を確認する: なぜ返済が難しいのか、どのような状況なのかを具体的に整理します。収入の減少、病気、失業、災害など、状況によって申請できる制度や必要な書類が異なります。
- 利用可能な制度を確認する: 自身の状況に合った制度は何かを、JASSOのウェブサイトなどで確認します。制度ごとの利用条件をよく読み込みます。
- 必要書類を準備する: 申請する制度に必要な書類を準備します。収入を証明する書類、診断書、罹災証明書など、公的な証明書が必要となる場合があります。
- 申請手続きを行う:
- 多くの制度は、JASSOのスカラネット・パーソナル(インターネット)を通じて申請できます。マイページにログインし、案内に従って手続きを進めます。
- インターネットでの申請が難しい場合や、特定の制度によっては郵送での申請も可能です。JASSOのウェブサイトから申請書類をダウンロードし、必要事項を記入して郵送します。
- 審査結果を待つ: 申請内容に基づき、JASSOによる審査が行われます。審査には一定の時間がかかりますので、余裕を持って申請することをおすすめします。
- 審査結果を確認し、制度を利用する: 審査の結果は、スカラネット・パーソナル上や郵送で通知されます。承認された場合は、通知された内容に従って制度が適用されます。
申請時の注意点:
- 早めに相談・申請する: 返済が難しくなると分かった時点で、できるだけ早くJASSOに相談するか、申請手続きを開始することが重要です。返済が遅れる前に手続きを行えば、延滞を防ぐことができます。
- 必要書類を正確に準備する: 書類に不備があると、審査が遅れたり、申請が承認されなかったりする可能性があります。必要な書類は事前にJASSOのウェブサイトで確認し、正確に準備してください。
- 定期的な手続きが必要な場合がある: 減額返還制度や返還期限猶予制度は、一定期間ごとに申請が必要な場合があります(例:1年ごとに再度申請)。制度を利用している間も、定期的に手続きが必要ないか確認を怠らないようにしましょう。
- 状況が変わったら届出を行う: 制度の適用中に収入が増えるなど状況が変わった場合は、速やかにJASSOに届け出る必要があります。
制度利用を検討する際に考えること
支援制度を利用することは、返済困難な状況を乗り越えるための有効な手段ですが、利用にあたってはいくつかの点を考慮することが大切です。
- 返済計画への影響を理解する: 減額返還や返還期限猶予を利用すると、返済期間が延長されます。これにより、完済年齢が上がる可能性があることを理解しておきましょう。返済総額は変わらなくても、利息がかかる有利子奨学金の場合は、利息が減る期間が長くなるため、結果的に返済総額が減るというメリットもあります。
- 自身の状況に最適な制度を選ぶ: 利用できる制度は一つだけとは限りません。自身の収入や今後の見込み、困難の期間などを考慮し、どの制度が最も自身の状況に適しているかを検討しましょう。
- まずはJASSOに相談する: どの制度を利用すべきか判断が難しい場合や、手続きについて不明な点がある場合は、まずはJASSOの相談窓口に連絡することをおすすめします。専門の職員が状況を聞き取り、適切なアドバイスを提供してくれます。
まとめ:一人で悩まず、適切な制度を活用しましょう
奨学金返済は、社会人としての第一歩とともに始まる大きな責任です。時に困難に直面することもあるかもしれませんが、国が用意した支援制度を活用することで、その負担を軽減し、完済を目指す道が開かれます。
今回ご紹介した減額返還制度や返還期限猶予制度だけでなく、万が一のための返還免除制度や、災害時の特例など、様々な支援策があります。これらの制度を知っていることは、将来の不安を和らげ、安心して返済に取り組むための大きな支えとなります。
もし、現在返済に不安を感じている、あるいは実際に返済が難しくなっている場合は、一人で悩まず、まずはJASSOの相談窓口に連絡してみてください。適切な情報収集と、利用できる制度の活用を通じて、きっと解決の糸口が見つかるはずです。適切な制度を活用し、無理のないペースで完済を目指していきましょう。