奨学金の返済総額を減らす具体策:繰り上げ返済の効果をシミュレーションで見る
はじめに:奨学金返済の負担と返済総額への関心
奨学金の返済が始まり、毎月の支出の中に返済額が加わると、家計への影響を感じる方もいらっしゃるかもしれません。特に有利子奨学金の場合、返済額の大部分を占める元金に加えて、利息も支払う必要があります。
返済期間が長くなればなるほど、支払う利息の総額は増えていきます。この「返済総額(元金と利息の合計)」を少しでも減らしたい、そして一日も早く奨学金を完済したいと考える方も多いのではないでしょうか。
この記事では、奨学金の返済総額を減らすための具体的な方法として、繰り上げ返済に焦点を当て、その仕組みやメリット、そして実際にどのくらい効果があるのかをシミュレーション例を交えてご紹介します。
奨学金返済における「返済総額」とは
奨学金の返済総額とは、借りたお金である「元金」と、その元金に対して支払う「利息」の合計です。無利子奨学金(第一種)の場合は利息がかかりませんので、返済総額は借りた元金と同額になります。一方、有利子奨学金(第二種)の場合は、借りた元金に加えて利息を支払う必要があるため、返済総額は元金よりも多くなります。
この有利子奨学金の返済において、返済総額を減らす、ということは、主に支払う利息の総額を減らすことを意味します。
返済総額を減らす主な方法:繰り上げ返済
有利子奨学金の返済総額(支払う利息)を減らすための最も効果的な方法の一つが、「繰り上げ返済」です。
繰り上げ返済とは、毎月決められた返済額とは別に、まとめてお金を返済することです。この繰り上げ返済で支払った金額は、全額が元金の返済に充てられます。
繰り上げ返済の仕組みとメリット
通常の毎月の返済では、返済額の一部が利息、残りが元金に充てられます(返済方式によって元金と利息の内訳は異なります)。しかし、繰り上げ返済は、支払ったお金がそのまま元金を減らすことに繋がります。
元金が減ると、それ以降にかかる利息は、減った元金に対して計算されるようになります。つまり、繰り上げ返済をすることで、将来支払うはずだった利息の一部または全部を支払わずに済むため、結果として返済総額が減少するのです。
また、繰り上げ返済によって元金が減ることで、当初予定していた返済期間よりも早く奨学金を完済することができます。
繰り上げ返済の効果をシミュレーションで見る
繰り上げ返済が返済総額を減らし、完済期間を短縮する効果は、具体的な数値で見るとより分かりやすいです。ここでは、日本学生支援機構(JASSO)の第二種奨学金で借り入れ、固定金利で返済している場合のシミュレーション例をご紹介します。
(※以下のシミュレーションはあくまで例であり、実際の効果は借入条件、返済状況、金利によって異なります。ご自身の状況に合わせてJASSOのシミュレーションツールなどで確認されることをおすすめします。)
シミュレーションの前提条件:
- 借入総額:300万円
- 利率:固定 0.3%
- 返済方式:定額返還方式
- 返済期間:20年(240回)
- 毎月の返済額:約12,800円
シミュレーション例1:返済開始から1年後に10万円を繰り上げ返済した場合
- この時点で残っている元金に対して、繰り上げ返済した10万円が充当されます。
- その結果、支払う利息総額が約〇〇円減少し、完済時期が約〇〇ヶ月(〇年〇ヶ月)早まる可能性があります。
シミュレーション例2:返済開始から5年後に30万円を繰り上げ返済した場合
- まとまった金額を繰り上げ返済することで、元金が大きく減少します。
- これにより、支払う利息総額が約〇〇円減少し、完済時期が約〇〇ヶ月(〇年〇ヶ月)早まる可能性があります。
シミュレーション例3:毎月返済額にプラスして少額を繰り上げ返済する場合(例:毎月5,000円増額して返済)
- 毎月の返済額を増額して返済することも、繰り上げ返済と同様の効果があります。この場合は、毎月返済額のうちの増額分が元金に充当されるイメージです。
- 例えば、毎月5,000円を追加で返済し続けた場合、合計で支払う利息総額が約〇〇円減少し、完済時期が約〇〇年早まる可能性があります。
このように、一度にまとまった金額を繰り上げ返済するだけでなく、毎月の返済額を少し増やすことでも、利息の軽減と完済期間の短縮という効果を得ることができます。早い時期に繰り上げ返済を行うほど、利息軽減効果は大きくなる傾向があります。
繰り上げ返済の具体的な方法
日本学生支援機構(JASSO)の奨学金を繰り上げ返済する方法はいくつかあります。
- スカラネット・パーソナルを利用する:
- インターネット上の会員ページ「スカラネット・パーソナル」から、いつでも都合の良い時に一部または全額の繰り上げ返済の手続きを行うことができます。この方法が最も一般的で便利です。
- 手続きには、スカラネット・パーソナルの登録が必要です。
- 電話で申し込む:
- 奨学金相談センターに電話で申し込み、手続きを行う方法もあります。
- 郵送またはFAXで申し込む:
- 所定の書類を提出して申し込む方法です。
手続き方法の詳細は、日本学生支援機構のウェブサイトで最新の情報をご確認ください。
繰り上げ返済を検討する際の注意点
繰り上げ返済には多くのメリットがありますが、注意しておきたい点もあります。
- 手元資金の確認: 繰り上げ返済に資金を充てすぎると、急な出費に対応できなくなる可能性があります。病気や失業などの万が一の場合に備えて、ある程度の生活資金は確保しておくことが重要です。
- 他の借入や貯蓄とのバランス: 奨学金以外にも、住宅ローンや車のローンなど、金利の高い借入がある場合は、そちらを優先して返済する方が効果的な場合もあります。また、将来に向けた貯蓄や投資とのバランスも考慮が必要です。
- 無利子奨学金の場合は利息軽減効果はない: 無利子奨学金の場合は、繰り上げ返済をしても支払う利息はありませんので、返済総額は変わりません。ただし、完済期間を短縮するというメリットはあります。
ご自身の家計状況や将来のライフプランを踏まえ、無理のない範囲で検討することが大切です。
返済が難しくなった場合の制度
繰り上げ返済は返済を「早める」「楽にする」ための方法ですが、もし何らかの理由で毎月の返済自体が難しくなった場合には、返済の負担を軽減するための制度があります。
- 減額返還制度: 災害、傷病、その他経済困難により、奨学金の返還が困難になった場合に、一定期間、月々の返還額を減額して返還する制度です。返還期間は延長されますが、月々の負担を軽減できます。
- 返還期限猶予制度: 災害、傷病、その他経済困難、失業などにより、奨学金の返還が困難になった場合に、一定期間、返還を待ってもらえる制度です。猶予期間中は返還の必要はありません。
これらの制度は、返済総額を減らすものではありませんが、返済を滞納してしまうリスクを避けるために知っておくと良いでしょう。制度の利用には条件があり、申請手続きが必要です。
まとめ:計画的な返済と繰り上げ返済の活用
奨学金の返済総額を減らし、早期完済を目指すには、繰り上げ返済が有効な手段の一つです。特に有利子奨学金の場合、繰り上げ返済によって支払う利息を減らすことができ、将来的な負担軽減に繋がります。
この記事でご紹介したシミュレーション例のように、少額でも継続して繰り上げ返済を行ったり、まとまった資金ができた時に活用したりすることで、着実に返済を進めることが可能です。
ただし、繰り上げ返済は計画的に行うことが重要です。手元資金とのバランスを考慮し、ご自身のライフプランに合わせて無理のない範囲で検討してください。まずは、現在の返済状況を確認し、JASSOのシミュレーションツールなどを利用して、繰り上げ返済の効果を具体的に把握することから始めてみてはいかがでしょうか。